カーシェアリングとは、「会員」同士で複数の車を共同利用するシェアリングサービスです。
「シェアリングエコノミー」について身近な例でいうと、Airbnbなどの民泊、Akippaなどの駐車場シェア、メルカリなどのフリマなどがすぐに思いつきます。カーシェアリングは特に「車」に関するシェアリングサービスで、今多くの経済学者、投資家、モビリティ関連事業者が注目しています。
目次
カーシェアリングが爆発的に人気を集めている理由
日本では2010年頃から急速にサービスが普及し始め、2018年3月現在は若者を中心に約130万人のカーシェアリングユーザーがいます。
なぜここまでカーシェアリングが普及したか、その最大の理由は安くて・手軽であるからです。
例えば自家用車では、数百万円の車体購入費に加えて、自動車税、ガソリン代、車検(2年に1度)、保険料、駐車料金、消耗品(タイヤ・バッテリー・オイル)、ローンなどの維持費がかかります。10年持ち続けるだけで、およそ1000万円以上にものぼります。
しかしカーシェアリングなら他人の車なので初期費用はかかりませんし、維持費もかかりません。そしてステーションに車があれば24時間利用できる。レンタカーでは窓口上の手続きになるため営業時間内でないと借りられず、謎の「ガソリン満タン返し」が慣例ですが、カーシェアではそれも無し(旅行先など日頃なじみのない場所でスタンドを探すのは地味にストレス)。
おまけに外車や高級車、キャンピングカーなども乗れます。15分単位で、かつネット上の手続きなので超簡単。
近隣ステーションで会員カードをこのように車にかざすと解錠され、運転をスタートできます。このカードさえ持っていれば、ステーションがある全国各地自由に移動できてしまうのです。例えばビジネスのシーンでもカーシェアリングは大活躍。出張先でタクシーを捕まえる必要もなく、レンタカーで手続きする必要もありません。このカードで解錠し、営業先までスムーズに移動できてしまいます。
特に東京・大阪都心部では。車を持たずカーシェアリングに登録する方が増えています。
メリット | デメリット | |
カーシェア | ・維持費がかからない ・6時間未満の利用だとレンタカーより安い ※15分206円(タイムズカーシェア) ・保険が安く充実している ・ガソリン代がかからない ※距離料金に含まれている ・外車や高級車も選べる ・24時間利用できる ※ステーションに車があれば ・窓口に行かなくてよい、WEB上の手続き |
・会員制サービス(月額料金がかかる) ※サービスによって異なる、無料~1000円程度 ・都心部に限定 ・使いたいときに使えない場合がある ・利用が週末に集中しがち ・衛生面の不安 ・6時間以上の利用だとレンタカーより高い ※旅行時などはレンタカーが優位 |
自家用車 | ・ステイタス ・いつでも使える ・地方ではコスパが高い ・車内をカスタマイズできる ・売却できる ・カーシェアを提供できる |
・維持費が高い ・都心部では交通網が充実している |
レンタカー | ・6時間以上の利用だとカーシェアより安い ・非会員制サービス(月額料金がかからない) ・常に清潔 |
・営業時間内でしか借りられない ・営業時間内でしか返却できない ・保険が高い ・ガソリンを満タンで返さなければいけない ・6時間未満の利用だとカーシェアより高い ※日常利用ではカーシェアが優位 |
タクシー | ・自分で運転する必要がない ・短距離利用の利便性が高い |
・利用料金が高い ・深夜料金がかかる ・防犯リスクを考える必要がある |
カーシェアリングとレンタカーの比較
カーシェアリングを語るにあたって、「レンタカー」との比較は避けられません。
両者は似て非なるものですが、カーシェアリングユーザーはその特徴を把握し、明確に使い分けています。言い換えると、カーシェアリングが台頭するまでレンタカーが両方の役目を苦しみながら果たしていたため、棲み分けが明確にできるようになりました。
特に料金面で言うと、基本的に6時間未満の「ちょい乗り」であればカーシェアリングがほぼ間違いなくお得になります。
車種や事業者によって上下することはありますが、例えば30分程度のためにレンタカーを借りようという方はいませんよね。しかし、自家用車の利用はほとんどが6時間未満のちょい乗り。レンタカーを借りるまでもない差を埋めてくれるのがカーシェアリングであり、新たな移動手段です。
カーシェアの利用例 | レンタカーの利用例 |
・買い物 ・保育園の送り迎え ・デート ※特にカーシェアは夜の利用料金が安い ・出張先で手軽に移動 ※法人登録数が激増している |
・沖縄や北海道旅行など車を使った観光 ・自分たちで引越しする場合など丸1日車を使いたい |
海外から始まったカーシェアリングの歴史
1948年にスイス・チューリッヒで近隣住民がお金を出し合って自動車を共同で利用したことが世界で最初のカーシェアリングサービスであると言われています。カーシェアリングサービスが企業のサービスとして立ち上げられたのは1987年で、こちらもスイスが発祥です。
それから欧州全域でカーシェアリングサービスが広まるようになり、やがて90年代後半ごろには米国にも広まります。アメリカ最大手のZipcarは2000年にサービスがスタートし、ドイツのダイムラーが運営している世界最大手のCar2Goは2008年からサービスがスタートしています。
Zipcarを代表する2000年代半ばまでのカーシェアリングサービスは、貸出場所と返却場所が同一である「ラウンドトリップ方式」が一般的でしたが、2008年に欧州で登場したCar2Goによって、許可された区域内の路上で乗り捨てができるフリーポート型の「ワンウェイ方式」が主流になりました。欧州だけではなく、アメリカでも流行したことから、ラウンドトリップ方式を採用していたZipcarも2016年には乗り捨てに対応すると表明しました。
路上駐車が許可されているなど、法整備がされている国では、Car2Goのようなワンウェイ方式のサービスが普及していますが、日本のように路上駐車が適していない道路事情や、法の整備が整っていない国は、ラウンドトリップ方式が一般的です。
このようなカーシェアリングサービスの普及は、非接触ICカードの登場や、携帯電話の高性能化など、IT技術の進化と比例して進んでいると言われています。
カーシェアリングだけではなく、自転車のシェアリングサービス(シェアサイクル)や、海外で普及しているシェアライドサービスのUber、民泊サービスであるAirbnbなど、シェアリングビジネスは2010年代以降急速に成長しています。
日本のカーシェアリングの歴史
日本で最初に始まったカーシェアリングサービスは、2002年にオリックス自動車が立ち上げた「オリックスカーシェア」です。アメリカでZipcarが始まったわずか2年後に、日本でカーシェアリングサービスを始めたことは画期的でしたが、利用できる場所が偏っていたことなどから、認知度はあまり高くありませんでした。当時は、ユーザーが利用したいと思えるサービスではなかったと指摘する声もありました。
しかし、2009年にコインパーキングを運営している「パーク24」が立ち上げた「タイムズカーシェア」によって、日本でもカーシェアリングが普及するようになりました。そして、タイムズカーシェアは全世界のカーシェアリングサービスの中で3番目に多い会員数となりました。後発のサービスにも関わらずここまで普及した理由としては、都心などに集中して利用できるステーションを設置する「ドミナント戦略」が成功したことが挙げられます。
自社が持っているコインパーキングという場所の特性を最大限に活かし、すぐ近くで借りられるという安心感、利便性をユーザーが感じられるようにしたことで、先発のオリックスカーシェアと大きく差を開けて急成長しました。
前述のとおり、日本では乗り捨てが不向きな道路事情や法整備が追い付いていないことから、カーシェアリングサービスは貸出場所と返却場所が同一の「ラウンドトリップ型」が一般的で、法律上はレンタカーと同一の扱いになっています。一方で、近年は実証実験として乗り捨て方式のカーシェアリングを行っている自治体もいくつかあります。
若者のクルマ離れを阻止!高級車にも乗れる
日本特有のカーシェアの楽しみ方として推奨されているのが、高級車のシェアリングです。社会的な背景や、今の若者の賃金では到底手を出せない高級車もカーシェアリングなら手軽に利用できます。若者は決して「車を嫌いになった」わけではなく、車を手にすることができなくなっただけ。カーシェアリングによって、若者と車との接触機会を増やすことも狙いの一つなのです。
また幼稚園の送り迎えや近郊のお買いものに女性が利用する際など、外形的な魅力を演出できる点においても人気を集めています。
【参考】各車のハイグレード車のラインナップと料金
事業者 | 車種 | 料金 |
タイムズカーシェア | ・MINI One ・MINI One CROSSOVER ・Audi A1 他 |
412円/15分 |
カレコ | ・ベンツ(計21種をラインナップ) ・キャンピングカー(トヨタ) ・ロードスター(MAZDA) ・Audi A3 ・レクサスCT,NX,IS 他 |
170円/10分~ |
日本のカーシェアリングの利用システムと使い方
日本のカーシェアリングサービスは、レンタカーの延長型である「ラウンドトリップ方式」です。ラウンドトリップ(英:round-trip)は、「往復」という意味の言葉であり、貸出した場所に返却することを指します。
一見、レンタカーと同じような仕組みですが、コインパーキングや商業施設内にある駐車スペースをステーション(貸出場所)として使い、ユーザー自身で貸出・返却手続きを行う仕組みになっています。
多くのサービスでは、月会費を徴収し、当月利用できる月会費と同額の無料利用料金を付与することで、毎月1回以上の利用を促しています。月会費の相場は約1,000円ほどで、毎月約1時間の利用で利用者は元が取れるようになっています。月会費が無料のプランも用意されていますが、有料プランに比べて利用料金が割高に設定されていることがほとんどです。例外的に、学生会員は月会費が無料で利用でき、有料会員と同等の利用料金でサービスを受けられます。
また、ユーザーがガソリン料金を支払う必要がなく、レンタカーでは数千円発生してしまうような充実した保険が無料で含まれている、もしくは安価で提供されており、レンタカーと比較してシンプルな料金設定がされています。
カーシェアリングの車両予約は、ウェブサイト、アプリで行うことが一般的です。一部は電話で予約を受け付けているサービスもあります。15分間から予約することが可能になっており、短時間の利用を想定してサービス設計がされています。仮に15分以上になっても、それがわかった時点で延長ボタンを車のナビ上で選択すれば延長できます(延長料金が割高になることもありません)。
車両を利用する際は、予約した車に専用のICカード(会員証)をかざすことで車の鍵が解錠され、利用開始、返却手続きを行うことができます。
日本のカーシェアリングサービスは、Suicaのような交通系ICや、WAONなどの電子マネーと同じFeliCaと呼ばれる規格を会員証に採用しているため、一部のサービスには、手持ちの交通系ICや、おサイフケータイを会員証として利用できるものもあります。
なおサービスごとの使い方は以下を参照して下さい。
カーシェアリングの清掃・マナーの問題
基本的に、利用者が返却前に車両をきれいな状態にしておく必要がありますが、約2週間に1度の頻度で管理会社による定期清掃や点検が入ります(写真はその様子)。
それでも、いろいろな利用者がいるので、中には飲みかけのペットボトルや、食べかけのゴミを放置したまま返却する人もいます。次回利用者が不快な思いをしないために、カーシェアリング運営会社はさまざまな対策を練っています。
たとえば、規約違反をした際のペナルティが非常に大きい点です。オリックスカーシェアは、ゴミを残したまま返却を行ったことを運営会社が見つけた場合、会員資格を剥奪することを明記しています。
マナーとは少し離れますが、タイムズカーシェアの場合は、事故を起こした際のペナルティが非常に重く、事故発生日から2年以内に複数の事故を起こした場合は、会員資格停止もしくは取り消しがされ、車両修理費の実費が請求されます。レンタカーに比べて、ペナルティが非常に厳しく設定されています。
カーシェアリングはどの事業者も規約違反や事故を起こした際のペナルティが重いため、利用者は交通安全に気をつけ、利用時のマナーにも注意しなければいけません。
「共同利用」「シェアリング」を前提としたサービスであるため、ユーザーの意識向上を図る取り組みも行われている
ルールで縛り付けるだけではなく、適切にカーシェアリングを利用することで特典が得られる場合もあります。
例えばタイムズカーシェアでは、安全運転を心がけたり、次の利用者に向けたアンケートに「車両が綺麗だった」という回答があった際や、給油を行った場合は、「プラスポイント」が付与されます。プラスポイントが貯まると、サービスチケットのプレゼントや、利用料金の割引など特典が受けられます。逆に、無断延長や駐車違反をした場合、NOC(休業補償)が発生した場合は、大幅に減点されてしまいます。
ちなみに給油は基本管理会社が行いますが、それが追いつかないタイミングで乗ってしまった人は、備え付けの「給油カード」を使って給油します。
(参考)オリックスカーシェアの給油・洗車カード
なおユーザーがお金を出して給油することはありません。全てのカーシェアリング事業者にはこの給油カードが備わっており、無料で給油できます。ただ、給油している間にも利用時間が減っていくため、給油してくれたユーザーには15分のサービスチケットを得られるという仕組みになっています。
カーシェアリングが低価格である理由
カーシェアリングは、レンタカーに比べて安価に利用できる場合が多くあります。低価格を実現できている理由としては、以下の3点が挙げられます
- 運営会社による清掃の頻度が少ない(利用者に任せられている)
- 無人で貸出・返却ができる
- サポートが一元管理されている
レンタカーの場合は、車両が返却されるとかならず清掃が入り、綺麗な状態で新たに貸出されますが、カーシェアリングの場合、利用者が綺麗にしてから返却するという前提があるため、定期的な清掃を除いて、運営会社が掃除することはありません。
また、レンタカーでは基本的に、レンタカー店舗でスタッフが同伴で点検を行い、貸出・返却手続きをしますが、カーシェアリングには店舗がなく、自身で点検を行い、貸出・返却もカードをかざすだけで完了してしまいます。レンタカーショップで発生していた店舗の運営費や人件費がかからず、車両になにか不備があった際や、予約の問い合わせ先も、レンタカーショップではなく全国共通のカスタマーセンターで一元管理されている点など、カーシェアリングは、非常に効率的な運用がされています。
カーシェアリングは、効率化を重視したサービスであることから、レンタカーに比べて安く利用できるのです。
カーシェアリングの今後の展望を考察
海外で主流のワンウェイ(乗り捨て)方式が日本で普及するのには、法整備や道路事情の問題などから、まだまだ時間がかかると言われていますが、利便性にやや欠けるラウンドトリップ方式であるにも関わらず、日本のタイムズカーシェアが世界で第3位の利用者数を抱えていることは大きく注目すべき点です。今後も日本のカーシェアリングユーザーが増え、「車を自身で所有すること」について考え直す人が増えていくでしょう。そういった意識の変化が起こることで、さまざまな場所に乗り捨て可能なステーションが設けられ、ワンウェイ方式の利用が可能になると考えられます。
自動車会社も、シェアリングサービスの普及によって起こった「車のサービス化」による将来的な自動車販売への影響も見据えています。事実、メルセデス・ベンツなどで知られるドイツのダイムラーが世界最大手Car2Goを運営し、トヨタ自動車もシェアリングを見据えた新会社を設立するなど、自動車メーカー各社がシェアリングサービスへの投資を積極的に行っています。
そして、自動運転技術が進歩することで、タクシーやライドシェア、そしてカーシェアリングのあり方も変わってくると考えられます。そう遠くない未来に、無人運転が可能になることで、これまで全く異なるサービスだったライドシェア、タクシー、カーシェアリングの垣根がほとんどなくなることでしょう。
なお下記ではカーシェアに関する「実態面」を中心にまとめています。更に詳しく知りたい方は合わせて御覧ください。