これまで日本でのカーシェアリングサービスは、タイムズカーシェアのような運営会社が持つ車をユーザー(会員)間で共有しあうレンタカーの延長型のようなサービスが主流でした。しかし最近では、個人同士で車を貸し借りする「個人間カーシェアリング」が徐々に勢いを増しています。
その中でも一番利用者が多いのが、DeNAが運営する「Anyca(エニカ)」です。都心部だけでなく全国でサービスが展開されており、所定の条件に通れば、簡単に自身の車を貸し出すことができます。
普段電車通勤で休日しか車を利用しない方や、セカンドカーなどを空いた時間に貸し出すことができるため、車の維持費の軽減やお小遣い稼ぎにもなり、一見とても魅力的なサービスですが、やはり個人に車を貸すのは少し勇気が要りますし実際にトラブルも起きています。
本記事では、Anycaのオーナーになることで得られるメリット、そして起こり得るデメリットについて、さまざまな視点からまとめていきます。
Anycaのオーナーになる、車を貸し出すメリット
運転しない時間を有効活用して小遣い稼ぎ
たまにしか車に乗らず、維持費に困っている方には、Anycaのオーナーになることをオススメします。
例えば1日5,000円として貸し出し、月に4回の利用があった場合でも、Anyca側の取り分はわずか10%なので、18,000円を稼ぐことができます。場所や車種など、利用者のニーズが合えば、より多くの金額を稼ぐことも可能です。
月に4回だけ貸し出したとしても、車の維持費を半分以上カバーできるため、Anycaで車を貸し出すことを前提に、少し背伸びして良い車を購入することもできるでしょう。
もちろん、自身が利用する予定の日は貸出できないように設定することや、自身で予約を承認するか決めることができるため、自分のペースで貸し出すことができます。
さまざまな人と交流できる
他県から観光に来た人からご近所さんまで、さまざまな方が利用するため、色々な方と交流することができます。基本的にオーナーが立ち会いをするのは貸出、返却の時だけですが、世間話をきっかけに交流を深められることもあるでしょう。
原則、オーナー1人が管理する車は1台なので、タイムズカーシェアなどと違って車の管理や清掃、サービスのクオリティが高いことで知られていて、あなたの努力次第でリピーターを付けることも可能です。
ただし、一方的にドライバーに近寄るのは迷惑と思われかねないので、あくまでも車を貸し出すオーナーであるということを念頭に置いて、一線を引きましょう。
認証制度とレビュー制度で安全面の強化
Anycaでは免許証、携帯電話番号の認証をしなければドライバーは車を借りられないほか、他のオーナーからのレビューも記録されるため、車を借りようとしている会員がどのような人なのか判断することができます。
メッセージのやりとりなどで「この人怪しいな…」と思ったら、予約リクエストを否認することができますし、オーナーは利用する人を選ぶことが可能です。
これらのシステムが完全であるとは言えませんが、個人間でも比較的安心して車を貸し出せるようになっています。
Anycaのオーナーになる、車を貸し出すデメリット
個人情報流出の懸念
Anycaで予約が成立すると、自動的にドライバーに、本名、免許証に登録された住所、電話番号が通知されます。オーナー側にもドライバーの情報は通知されますが、自宅以外で受け渡しをする場合でも住所が通知されてしまうため、最悪の場合、ストーカー被害などに巻き込まれる可能性もゼロではありません。
また、アプリ上だけではなく車内に保管している車検証などでも個人情報が漏洩してしまうリスクも考えられます。
Anycaでは免許証や電話番号の認証をしなければドライバーは車を借りることができないほか、ドライバー、オーナー共にレビュー制度が設けられているため、それらを判断して予約リクエスト承認の可否を考えることができますが、貸出後に不審な出来事があった場合は、警察に相談をしましょう。
車の盗難は補償されない
ドライバーが利用中に車が盗難された場合、もしくはドライバーに車を盗まれた場合、一日自動車保険とAnycaは一切補償してくれません。
一日自動車保険にも車の盗難は「対象外」と明記されている他、Twitter上でもAnycaで車の盗難被害にあったと報告されたツイートがいくつもあり、中には車が解体された状態で見つかったというツイートもありました。車が盗難にあった際もAnycaは何も対応してくれなかったと複数のユーザーが報告しています。
ヴェルファイアを探しています!
ヴェルファイアZG ホワイト エニカで盗難 https://t.co/qAr1AWyDdw @より
— 自動車盗難情報局 (@jidousha_tounan) June 3, 2018
Anycaさんダメだ盗難対策についてテンプレ回答しかしないし、フランチャイズもどきな事してるけどあれは許してるのか聞いたんだけどそれすらテンプレ回答だから少し温めて週刊誌に売ろうかな…
— カーシェア@Anyca (@CarShare123) June 7, 2018
そのような事態を防ぐために、携帯電話番号認証や、免許証認証、貸出時のオーナー・ドライバーの免許証確認などを行うシステムが取り入れられていますが、それでも巧妙な免許証の偽造であれば、オーナーは気づきもしませんし、携帯電話番号認証も抜け道がいくつもあるため、ほとんど意味がありません。
追跡可能なGPSを装着することも、ドライバーに事前に通知しておかなければ「プライバシーの侵害だ」と騒がれかねず、事前に通知をしていても悪巧みをする人たちはGPSを無効化してから盗難することも考えられるため、鍵を渡してしまう以上なかなか防ぎようがないという問題点があります。
車の状態が悪化する可能性
車の貸出をする際に、立ち会いをしながら既にあるキズの有無の確認をし、返却時も状態に問題がないか確認しますが、後々になってキズに気づいたり、車内の汚れに気づいてしまうケースもあります。
本来であれば、立ち会い後でも問題点があったことをドライバー側に知らせるべきですが、面倒に感じてそのまま放置してしまう場合もあるようです。細かいところを指摘すればレビューで悪い評価を付けられてしまったり、Twitterなどで文句を言われたり、そうした思惑を忖度して妥協してしまう方も多いようです(特に日本人は)。
こうしたことが積み重なっていくうちに、車にキズが増え、状態が悪化してしまうことも考えられます。個人間カーシェアによる「おもてなし」の面と、ビジネスライクに厳しく指摘できる覚悟はオーナーに必要なスキルと言えそうです。
もちろん、すべての利用者がそのようなことをするとは限らず、個人の車だという意識を持ちながら大事に利用している方がほとんどですが、個人間カーシェアにはそのような懸念もあります。
それを回避するためにも、キズの確認は念入りに行いましょう。アプリ上で既にあるキズを登録し、ドライバーと共にチェックすることも可能なので、トラブル回避のためにもキズ登録・確認はアプリ上で行っておきましょう。
Anycaというサービスそのものがグレー
本来車を「貸し出す」ということは、自家用自動車の有償貸渡業(レンタカー)として登録しなければなりません。しかしAnycaの場合、個人が「Anyca会員」として貸し出すため「わ」もしくは「れ」ナンバーでなくとも、登録なしに車を有償で貸し出せる仕組みになっています。
「シェアリングビジネス」としてはよく考えられたものですが、法的に言うと「グレー」なのが実情。
更に「儲け」目的でAnycaを始めるのも法的にアウトの可能性があります。本来、車の維持費を超える収益を出してしまうとその実態は「自家用自動車の有償貸渡業(レンタカー)」であり、事業用として車を登録する必要があります。
SNSや個人のブログなどで「Anycaで◯万円儲けた!」「Anycaの儲け方教えます!」などと自慢したりすると、お上があなたの家にやってくるかもしれません。
Anycaを通さず個人間でやり取りしてもいいの?
Anycaオーナーは、月額費用がかからないかわりに利用者ごとに10%の手数料が取られる仕組みです。例えば1日5,000円の車を2日間レンタルした場合、売上金額は10,000円ですが、手数料1,000円はAnycaの取り分です。
この手数料分を免れるために、例えば何度も利用してくれるリピーター向けに格安で提供したり、モグリ的なビジネスを考える方も少なくないでしょう。結論は、これも自家用自動車の有償貸渡業(レンタカー)として登録しなければならないため、一般車でカーシェアを提供するのは法的にNGです。ただ、できるか・できないかで言えばできます。
オーナーはAnycaに対する手数料が不要となり、ドライバーは料金が更に安く心知れたオーナーから車を借り、Anycaよりも安い保険を選ぶことができます。
しかし繰り返しになりますが、道路運送法違反、脱税、Anyca規約違反、事故時の補償・保険の申込みの手間など、予測される手間は色々と考えられます。
まとめ:車の維持費は回収できてもそれ以上の損失もあり得る…?
車の維持費を軽減できるなどの経済的な利点はありますが、一方で、貸し出すために洗車をしたり、車内の清掃などでの支出も当然出てきます。
さらに、ドライバーの認証制度や一日保険、そして運営のサポートなど、「安心して利用できる」と謳う現行のAnycaのシステムにも懸念点がいくつかあり、最悪の場合、収入以上の損失が出る可能性もゼロではありません。
とはいえ、そのような大きなトラブルもほんの一部に過ぎず、ほとんどのオーナーやドライバーは満足して利用しているように感じられます。
Anycaも徐々に不正対策を強化しており、オーナー間でさまざまな情報を共有する会も開かれているため、念入りに対策をすれば、上で挙げた懸念事項も杞憂に変わることでしょう。
新規オーナーのための説明会なども定期的にやっているそうなので、興味がある方は一度足を運んでみてはいかがでしょうか。